AI 時代における経済の未来像
OpenAI 財団は、安全で豊かな経済的未来の構築に向け、初期資金として2億5,000万ドルを拠出します。
OpenAI 財団は、安全で豊かな経済的未来の構築を目的とした助成金、パートナーシップ、直接的な活動に、初期資金として2億5,000万ドルを拠出します。
経済システムは、原則として、人々に安心、自律性、そして目的ある人生を築く力をもたらすために存在しています。期待に応えられないことも数多くあります。AI は、これまで希少だった能力をはるかに広範に利用できるようにすることで、経済に大きな変化をもたらすでしょう。しかし、こうした変化がどこまで、どれくらいの速さで進むのかについては、非常に大きな不確実性があります。こうした可能性の広がりにより、現在、そして将来にわたって人々のより良い暮らしを実現するシステムを構築する、またとない機会が生まれています。しかし、現在の変化のペースを踏まえると、これに適切に対処するための猶予期間は私たち思っているよりも短く、誤った対応をした場合の代償は甚大です。
未来がどう展開するかを正確に知ることはできはなくても、未来に備えることはできます。本プログラムには、検証、統治、改訂、拡大が可能な具体的かつ制度的な選択肢に対し、リソースを提供することを支援するという目的があります。私たちは次の3つの分野に取り組みます。
変化を理解する: AI が経済に及ぼす影響をより明確に把握するため、独立した測定・予測インフラに投資する。
移行を支える: 短期的な混乱を乗り切るために、労働者と地域社会にリソースを提供する。
経済的安全保障の構築: ポストAI時代の政治経済の新たな組織化手法を支援し、世界中の人々に経済的利益を広く共有する。
AI の経済的影響は広く実感されることになるでしょう。そして、人々の経験は私たちの思考にとって不可欠なインプットとなります。私たちはこの投稿にあわせて、仕事、コミュニティ、経済生活の中で目にしていることを共有するよう呼びかけています。そうした視点は、形式的な研究では見落としがちなことを理解するのに役立ちます。これは、財団の取り組みが進展する中で、さまざまな意見をより幅広く取り入れるためのチャネルを構築していくための第一歩です。
変化を理解する
AI が経済をどのように変えているのか、また今後どのように変えていくのかという根本的な問いに答えるための有効な方法は、まだ十分に確立されていません。社会が経済の変化を測定し解釈するうえで頼りにしているシステムは、別の時代のために作られたものです。私たちの目標は、次にやって来るものを共に築くことです。
中心的な問いは、AI に何ができるかだけでなく、その価値がどこに帰着するのかです。すなわち、賃金を通じて労働者に、利益率を通じて企業に、価格の低下やサービスの向上を通じて消費者に、課税ベースを通じて政府に、あるいは賃料等を通じて資本家に帰着するのか、という点です。たとえば、AI がより高い賃金という形ではなくデジタル財として価値を生み出す場合、所得統計ではその価値を捉えられません。労働分配率が低下すると、労働者の交渉力が弱まり、GDP は福祉を測る代理指標としての有用性が低下する可能性があります。人々の所得だけでなく、実際に何ができ、何にアクセスできるのかを把握する指標が必要です。
AI の経済的影響を研究する多くのアプローチは現在、どのタスクが自動化できるかに焦点を当てています。これは有用ですが、不完全です。AI の経済的影響は、タスクがどのように職務として束ねられるのか、自動化が人間の労働を駆逐するのか、それとも人間の労働を補完する新たな役割を生み出すのか、またモデルの能力向上に伴いタスクの配分がどのように変化するのか、そして企業や国家がそうした変化を基盤にどのように再編されるのかによって左右されるでしょう。こうした変化を理解するには、雇用、賃金、移行、企業行動を測定するBLSのような能力と、仕事をマッピングするための近代化された O*NET のようなシステムを備えた、より優れた労働市場に向けた公共インフラの改善が世界的に必要です。これらのシステムはグローバルな関係性を有し、必要に応じて、人口統計学的情報、地理的情報、キャリア段階、および職位レベルに関する情報と連携している必要があります。
各国は、AI への移行をそれぞれ異なる形で経験するでしょう。私たちは、地域経済に対する AI の影響を直接測定するだけでなく、AI がさまざまな文脈において、人々をどのように支援できるかを理解するための経済評価にも資金を提供します。これは特に低・中所得国における喫緊の課題です。これらの国々では、AI が急速に能力を拡大し、公共財を強化し、経済的流動性に貢献する可能性があるからです。私たちは、各国独自の条件で AI を有効活用するために、地域特有のインフラ、地方機関、普及モデルの構築に役立つアプローチに関心を抱いています。
移行の支援
経済の転換は、十分に理解される前に、まず経験されるものです。私たちは、人々をいま支えると同時に、社会がより長期的な変化に備えられるよう支援する取り組みに資金提供することを目指しています。
人々は、求職活動中の支援、失業保険へのアクセス向上、賃金減少を補償する保険の拡充、これまでの経験を新しい役割に活かすための支援、そして成長部門への移行経路が必要になる場合があります。職業再訓練は解決策の一部となり得ますが、従来の職業再訓練プログラムの有効性に関する証拠は一様ではなく、AI への移行に向けた取り組みをより広範囲に及ぶようにする必要があるでしょう。こうした取り組みを評価する際には、それらが人々の経済生活に関して、より良い仕事、より高い安定性、より幅広い能力、そしてより多くの真の選択肢につながるかどうかについて、厳密に測定・評価しなければなりません。
目標は再雇用だけではありません。私たちはまた、労働者が AI の導入に関して主体性を持ち、市民が経済変革を形作る制度において真の発言権を持つようなアプローチにも関心を持っています。仕事のあり方が変化する中で、仕事が意義、目的、満足感をもたらすのはどのような時なのか、そしてより多くの人々がそうした条件を享受できるようになるにはどうすればよいのかを深く理解したいと考えています。
こうした取り組みを可能にするべく、私たちは政府や公共機関が実際に成果を出す能力を高めるための投資も行います。どれほど優れた設計のプログラムでも、それを実行するためのインフラが存在しなければ失敗に終わります。AI そのものが、世界中で国家の行政能力と公共サービスの向上を加速する強力なツールになり得ます。私たちは、それを現実のものにするための野心的な取り組みに資金を提供します。
私たちは、既存のシステムから十分な恩恵を受けられていない人々のために、AI が適切に機能することに特に関心を持っています。人々のキャリアの意思決定を支援し、法務や財務上の疑問に対応し、医療に関する助言へのアクセスを可能にし、これまでは限られていた専門知識を必要としていた問題を解決できる AI は、特にその種のサービスが不足している、あるいは存在しない地域において、真の格差是正をもたらす手段となり得ます。しかし、これはツールがアクセスしやすく、慎重に導入され、実際に利用する人々とともに設計されている場合にのみ有効となります。何が有効かは、業種や地域によって異なります。私たちは革新的なアイデアを歓迎し、複数のアプローチを横断して意義のある規模でパイロット事業に資金を提供し、そこから得られた知見を活用していきます。
長期的な経済的安定を築く
AI がもたらす変化のペースと規模については、意見が大きく分かれています。しかし、確証が得られるのを待って時間を無駄にする余裕はありません。
上記の移行措置は、自動化が加速し、経済的利益が劇的に集中し、あるいは所得のうち賃金として支払われる割合が大きく変動するような世界を想定して設計されたものではありません。そのようなシナリオでは、社会は、人々が価値を生み出すシステムに永続的な利害関係を与えるような、新たなアプローチを必要とする可能性が高くなります。私たちは、有望なアプローチをアイデアから検証可能な設計へと進める支援をしたいと考えています。つまり、それらがどのように資金調達され、どの機関が実施・運営を担い、どのようなリスクを生み出し得るのか、またそれらが機能しているかどうかを判断するためのエビデンスを明確にしていきます。
歳入面では、パイロット事業を通して検討・検証する価値のある重要な提案がいくつかあります。例えば、労働に対する課税から資本や経済的レントに対する課税への移行、棚ぼた式利益や超過収益に対する仕組み、そしてノルウェー政府年金基金やアラスカ州永久基金のようなモデルを参考にした公的ファンドまたは政府系ファンドへのアプローチなどです。深刻な不確実性の下では、財政メカニズムは適応的である必要が生じる可能性があります。税率、拠出金に関する規則、または配当算定式は、利益の集中、労働分配率の変化、人員削減、超過収益などの観測可能な指標に応じて調整される可能性があります。
分配の面でも、こうした問いかけは同様に重要です。すなわち、所得、資本、公共財、不可欠なサービス、雇用や公共事業プログラム、計算資源へのアクセス、あるいは新たなデータガバナンスの形態を通じて、人々に対し、広範な経済成長に対する持続的な権利をどのように付与するかという問いです。目標は、決定が既に下された後に経済的変化を乗り越えられるよう人々を支援するだけでなく、その変化がどのように展開していくかを形作る過程において、人々が当事者として関わり、発言権を持てるようにすることです。
今後の作業の多くは、経験的なものだけでなく、設計的なものでもあり、まだ存在しないシステムを想像する必要があります。私たちは、この取り組み全体における意思決定に役立つ研究インフラを支援します。私たちは特に、AI を用いて経済が能力向上に伴ってどのように進化していくかをモデル化したものと、さまざまな可能性のある未来像に基づいたシナリオプランニングと組み合わせた、マルチエージェント経済シミュレーションに関心を持っています。
結論
私たちは、大きな変革に見合う野心的な取り組みを求めています。これには、私たちがまだ思い至っていないアイデアや、私たちが規模拡大を支援できる取り組みも含まれます。何が最も必要とされているかについて、皆さまからのご意見をお待ちしています。
この2億5,000万ドルは、助成金、公募、機関とのパートナーシップを通じて外部組織を支援するために充てられます。一方で、財団は自ら直接的に取り組みを推進するチームを構築し、この分野における意欲的な新規プロジェクトの立ち上げも支援します。今年後半に最初の取り組みを発表する予定であり、それを進めていく中で得られた知見を随時共有していきます。私たちは、どのアプローチが実際に有効かを理解したうえで、経済的安全保障の選択肢が必要に迫られる前に現実のものとなるような、独立した、十分なリソースを備えたエコシステムを強化したいと考えています。
私たちは今、数世代に一度とも言える重大な経済的転換の入り口に立っています。私たちは、この変化が全人類に恩恵をもたらすようにするための作業は、財団が今まさに取り組み得る最も重要なことの一つだと考えており、それにふさわしい姿勢で臨む所存です。
- Acknowledgements: Edede Oiwoh, Shantanu Jain